「音響ハウス」というドキュメンタリー映画(20201221)

このスタジオの名前をご存知の方はどのくらいいるのだろうか?

最近「シティ・ポップ」などと言う括りで、70年代後半から80年代の、当時の言い方だと「ニューミュージック」の人気が再燃しているようだ。70年代後半はまだまだレコードの時代、80年代初頭からCDが出てきてレコードがその座を取って代わられる頃の音楽だ。当時のミュージシャンのLPなどのクレジットを細かくチェックしている人やインタビューを読んでいる人なら、度々その名を聞いたり目にしているかもしれない。

私は以前、銀座(の外れ)の職場に勤務していた。ランチ後の散歩に銀座エリアの裏通りなどを細かく歩いて見るのが楽しみだった。職場から見えるビルで「ずいぶん窓の少ないビルだなあ、倉庫なのかな?」などと眺めていたビルがあった。ある日、ランチ後の散歩でそのビルの横を通り、表記されていたビルの名を見ると「音響ハウス」とあった。

(あれ?音響ハウス・・って、確か有名なレコーディングスタジオじゃなかったっけ?こんな場所にあるの?これがそうなの?)

その後、この音響ハウスを見上げるたびに、今日はこの中でどんなミュージシャンがレコーディングしているのかなあ(ドキドキ)・・などと思ったものだ。

前置きが長くなったが「音響ハウス」は、この「スタジオ」が主役のドキュメンタリー映画である。

1974年に設立された音響ハウスは昨年、創立45年を迎えたそう。レコーディングスタジオと言えばレコード会社系が多いが、ここは独立系のあくまでもレンタルの総合スタジオ。ゆえに著作権等のこともあると思うが、レコーディング当時の写真や資料がたくさんスタジオに残っているわけでもないようだ。このドキュメンタリーでは当時を思い返して国内外の多くのミュージシャンがスタジオ愛を語っている。70年代後半まだまだブレイクする以前の坂本龍一や山下達郎。結婚後多くのアルバムを制作した松任谷由実、松任谷正隆。矢野顕子、デビッド・リー・ロスや葉加瀬太郎など多くのュージシャンがここでレコーディングをしている。そしてそのスタジオの素晴らしさやレコーディングエピソードを語ってくれるのだ。

ここははロック・ポップ・クラシック・映画音楽・CM音楽などジャンルを問わず利用され、ストリングスを含むオーケストラアレンジの録音などもできるスタジオだそうだ。今となってはそれって大変贅沢な気がする。そして凄腕の機材修理の方やエンジニアなど優秀なスタッフがいるのだということも知った。ドキュメンタリー映画としては、思い出話だけでなく、実際にスタジオを使ってのレコーディングも見られる。HANAという若い女性シンガーのレコーディングである。そのために、佐橋佳幸、大貫妙子、高橋幸宏、井上鑑、葉加瀬太郎が集まり楽曲を完成、レコーディングしていく様子が見られるのだ。この曲が映画の主題歌にもなっているのだが、とてもいい曲!

このレコーディング風景が楽しい。みんなで音を出し合って、ディスカッションしながらワイワイと出来上がっていく。見ているとワクワクしてくる。撮影は昨年中のことなので、コロナの影響はなかったのが何より。幸宏さんのドラムもキレがあって素敵・・・。など音楽好きにはたまらない映画だと思うのだ。また、今や家でパソコンで音楽が作れる時代ではあるが、スタジオが生み出す魔法もあるのだと(今やスタジオはどんどんなくなっているそうだが)いつまでも現役で残り続けてほしい。